都市デザイン研究室
都市デザイン研究室
美土利会会員の皆様には、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。都市デザイン研究室の近況について紹介させていただきます。
現スタッフは、山中教授、滑川准教授、真田助教の3名、学生は博士課程1名、修士課程11名、学部4年生10名、研究生1名の合計23名が在席しています。そのうち、社会人学生は2名、外国人留学生は3名となっています。
都市デザイン研究室では、スタッフ3名が、それぞれ交通(山中)、建設システム(滑川)、景観(真田)といった異なる研究分野に身を置いていますが、「人との関わりという視点から土木事業を見つめる」という共通認識をもって研究を進めています。
山中は、環境・安全に加えて健康に配慮した交通システムについて研究を進めています。この数年は自転車の走行空間整備の課題を研究しており,道路 上でのルールの情報を伝達するための路面標示の研究などを行ってきました。今後は自転車の本来の性能を発揮できる利用の促進について力を入れる予定です。 加えて,理事として参画しているNPOでの取り組みや,地域の行政と連携した活動の中では,高齢化,人口減少の中でのまちづくり,地域主体の計画づくりな どを進めるための,しくみづくり,合意形成の支援方法などを進めています。
滑川の研究的関心は、これからの建設業が、今後、事業業態が変化する中にあっても、あくまでも『価格+技術力』が建設業の本分としつつ、『技術 力+価格』を『建設コスト』として捉え、市場性の世界が展開できる産業になるために、如何なる『建設システム』の変革が必要なのかという点にあります。そ のため、「受発注者間の「建設コスト」の概念が著しく乖離した標準的公表価格と実際の取引価格との差」から建設コストを回収するという稼ぎ方の構造の限界 という観点から、また美土利会の大先輩とも議論を重ねご指導を頂きながら研究を行っています。
現在、土木学会建設マネジメント委員会を 中心に活動を行っており、昨年度より、研究問題検討小委員会委員長、公共調達制度評価特別小委員会委員長等を仰せつかっております。また、一昨年度には土 木学会重点研究課題「日本建設企業を対象とした公共工事の入札戦略に関する調査研究」を実施するとともに、昨年度の全国大会では、この研究成果に基づいた 研究討論会「公共調達制度のPDCAシステムを考える」を座長として開催させて頂き、現在、建設企業が入札意識として最も影響・問題しているキーワードが 「発注者積算と自社積算の乖離」であった等の情報発信に努めております。
真田は、徳島に来てから、一次産業や人々の生業の姿である集落風景に関心を持っています。棚田や段畑などの風景は近年、その価値がみとめられつつ ありますが、そうした風景をつくっている生活自体が過疎化によって失われています。この研究は緒についたばかりで研究方法も確立していませんが、まずは農 業体験や石積み体験などを通して集落風景を「内側から」見ることを始めています。また同時に、学生時代からの研究テーマである都市計画史研究も継続してお り、都市計画移入・解釈期(明治~第二次世界大戦前)における「コンパクトシティ」の日本的解釈について研究を進めています。
土木学会では、景観デザイン委員会の デザイン賞運営幹事の主査をつとめさせていただいています。デザイン賞とは、美しい都市や国土を育むことを目的とし、土木のデザインによって公共空間や公 共施設の質が向上した作品を選定しその実現に貢献した関係者を顕彰するものです。身近にそのような作品がございましたら是非ご応募下さいますようお願いい たします。
また徳島県内において、水口裕之先生が徳島景観研究会を立ち上げられ、会長をつとめられておりましたが、昨年の徳島大学の退職を機に、真田がその役を受け継ぐことになりました。
そのほか、研究室に関する詳しい活動状況につきましては、研究室のホームページをご覧下さい。
地震工学研究室
地震工学研究室
大角 恒雄
東日本大震災を経験して
東日本大震災は地震工学を携わる研究室として衝撃的でした.海外の研究者から,「日本では最も懸念される災害は何か」と聞かれたところ「日本では 毎年注目される災害は異なる」と答えたことがあります.ある時は建物被害,ある時は土石流被害,ある時は火山災害が注目され,今回,津波災害一色になって いるのが現状です.災害対策にはもっと長期的な視野が必要と思われます.
また,南海地震のみが注目されていますが,研究室にあがってくる地震観測結果によると,中央構造線沿いの地震も多く発生しており,津波以外の被害が想定されます.関東では,立川断層周辺の活動が活発化しており,首都直下地震も目が離せない状態です.
今後の想定地震に関して
今回の地震災害において実際にマグニチュードM9に地震が発生したことを踏まえ,津波の想定は段階的に実施すべきで,M9による津波が襲来したときにどの程度の浸水域が発生するか発生する必要があるのではないかと考えます.ただし,M9 にすると中規模地震における被害想定・対策が見えてこないのと,設計においてはそれぞれの基準に基づいて安全率を考慮して設計されるものであるので,設計 と想定とは切り離すべきでないかと考えます.現在の南海・東南海・東海の連動に対して,想定見直しにはしっかりとした根拠の設定が必要であります.
想定を上げるのでなく,想定を超えた時にどう対応するかが重要と授業では学生に伝えています.
公開講座に関して
東日本大震災の津波の被害から3,000人を救った(釜石市の小学生1,927人,中学生999人のうち,津波襲来時に学校の管理下にあった児 童・生徒については,全員の無事が確認された)群馬大学広域首都圏防災研究センター長の片田敏孝先生をお招きして公開講座を徳島大学で実施しました.参加 者は250名を超え,午前中に徳島市役所で実施された講演参加者を加えると500人以上の方々が参加したこととなります.多くの新聞にも開催内容を掲載い ただきました.「想定」に対して,防災行政上の想定としては,既往最大津波を想定した防災行政では,その想定外力を超えたことに関して,「想定が甘かっ た」,「想定を見直そう」という議論となりますが,「想定外力を無尽蔵に上げることが本質なのか?」,「日本の沿岸部を全て巨大なコンクリートの壁で囲む ことを望むのか?」,「巨大な壁に囲まれた地域に住みたいと思うか?」,「投資対効果の観点で妥当な投資なのか?」がポイントです.ハザードマップに示さ れるような浸水想定区域は,あくまで防災施設を建設する際の“想定外力”であって、それ以上の災害が起こる可能性があるとして,『想定にとらわれるな』と 片田先生は結論付けました.
今後も開かれた大学として,著名人による公開講座を実施してゆきたいのですが,いくつかの“障害”があります.たとえば大学の教室を使用する場合 学生主体でなければ教室使用料が必要となることや,規定を超える謝金は大学では捻出できないため,今回は個人で費用を充当しました.個人としては年数回実 施するのは限界もあり,大学の生涯教育が要求されている社会貢献としても今後検討が必要と考えております.
徳島新聞 2011年6月19日(日)
掲載許可(2011年8月9日)
地盤工学研究室
地盤工学研究室
会員の皆様,地盤工学研究室の近況について報告させていただきます。スタッフは渦岡の他,鈴木壽准教授,上野勝利准教授,木戸崇博技術職員です。 渦岡は計算地盤工学が専門ですが,計算に興味を示す学生が少ないので現象の理解や解析モデルの開発に使うための模型実験を優先して実施しています。河川堤 防や天然ダムの越流時の破壊過程,風倒木と斜面崩壊の関連性,土構造物の地震時挙動などを調べています。鈴木先生は,不飽和土の研究を昨年から本格的に開 始されました。幸い良い学生にも恵まれ,一年で論文ネタとなるデータも得られました。今後も新たな土質試験装置の開発などを通じて,データの蓄積ととも に,「鈴木モデル」の開発を期待しております。上野先生は,地中構造物周辺の空洞による道路陥没などの問題に対して,遠心模型実験や独自に開発された水分 計などを用いて取り組んでおられます。この水分計や水位計は従来法よりも安価に計測できますので,会員の皆様におかれましても使って頂けるチャンスがある ものと期待しております。渦岡の専門が計算地盤工学ですので,両先生の実験に対する経験や技術とそれに基づくアイデアは非常に頼もしく感じており,研究室 全体の活動が個々の研究テーマの進展につながることを期待しています。木戸さんには,研究室の事務や学生実験の面倒をみていだたく傍ら,学科の教務やネッ トワークのサポートをされております。仕事は積極的ですが奥手らしく,いまだ独身ですので婚活中の方がいらっしゃいましたらご紹介お願いします。
学生は総勢25名です。社会人博士課程:1名,博士課程:1名,修士課程:9名,学部4年生:14名となっております。修士1年には同済大学との ダブルディグリー(DD)の留学生が1名おります。日本人学生の視野を広げるため,またアジアの一員として留学生を積極的に受け入れる予定です。
最後に東日本大震災への対応です。研究室では渦岡と上野先生が地盤工学会の災害調査団として何度か現地調査を行いました。調査結果は学会誌などで 報告しております。地盤工学関係では,津波による海岸堤防や河川堤防の被害,地殻変動による地盤沈降が新たなテーマとなりました。前者については堤防の越 流問題などの経験を生かして,当研究室でも取り組む予定です。後者はより深刻な問題ですが,スケールが大きいため思案中です。造成宅地の盛土崩壊や宅地の 液状化による被害について,研究は進んでおりましたが対策が追いつかず大きな被害となってしまいました。今後は安価な対策工法などの開発が進むと思われま す。また,液状化や構造物の震動による被害について,地震動の継続時間の長さや繰返し回数の多さが与えた影響さらには余震の影響を検証する必要がありま す。これも研究は進んでおりましたが,実際の被災事例が少なかったため対策などに生かせる研究成果はまだ少ない状況でした。阪神・淡路大震災以降に直下型 地震への対応が進んだように,今後は海溝型巨大地震への対応が進むものと思われます。研究以外の対応として,一昨年までお世話になった東北大への物資の支 援を地震直後に行い,最近では研究室の4年生が泥出しなどのボランティアで石巻市に出向いています。大災害に際してマスコミは降って湧いた問題のように報 道しますが,多くは予想されたものです。これまでの研究の蓄積を生かして大震災での問題をしっかり検証するとともに,被災地に対しては息の長いサポートに 努めたいと思います。会員の皆様におかれましても,美しく美味しい東北へ是非お出かけください。
(渦岡記)
徳島自動車道現場見学(2011年6月30日)
コンクリート研究室
コンクリート研究室(旧土木4講座)
美土利会会員の皆様方には,益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
現スタッフは,橋本教授,渡邉准教授,石丸技術職員(維持再生工学研究室兼務),学生24名(D1生:2名,M2生:8名,M1生:4名,B4 生:10名)です。現在のスタッフによる研究活動は,橋本教授が材料や施工をメインとしたコンクリート工学分野を,渡邉准教授が非破壊検査をメインとした コンクリートの維持管理分野を担当しております。構造物がこれまでの新規建設の時代から維持管理する時代に転換してきたことを受けて,当研究室の研究活動 をシフトさせてきております。
前回の2009年の研究室便り以降の新しい動向としては,2010年4月から,渡邉健先生が,助教から准教授に昇任されました。
2010年9月に,維持再生工学研究室の上田隆雄先生の教授昇任と併せて,ホテルクレメントにおいて昇任祝賀会が,両先生赴任後の卒業生を中心に盛大に行われました。
一昨年夏から,コンクリート研究室と維持再生工学研究室のテニス好きが集まってテニス合宿を行って,両研究室の親睦を深めております。
また,秋の研究室対抗ソフトボール大会では,久しぶりに優勝することができました。
最後になりましたが,皆様方の益々のご健康とご活躍を祈念いたします。
地域防災研究室
地域防災研究室
美土利会会員の皆様方には,益々ご健勝にて,ご活躍のこととお慶び申し上げます.
現在,当研究室は,中野 晋教授,蒋 景彩准教授,梅岡秀博技術専門職員(地域防災・都市デザイン・河川水文の3研究室を担当)の3名の教職員,博士後期課程学生7名(中国人留学 生2名,社会人5名),博士前期課程学生7名(中国人留学生1名),学部4年生7名の学生,計24名で研究・教育活動を進めています.当研究室の研究活動 は平成16年4月から学内に設置されている環境防災研究センターと深く関わっており,センター所属の粕淵義郎助教(BCP専任)と騎馬貴子技術補佐員も当 室の研究活動には欠かせない存在となっています.
2009年度の美土利会会報第37号で当研究室の様子を紹介させていただきましたが,以下は最近2年間の研究室の動向についてご報告します.
中野は,南海地震対策を中心に,地震・津波,高潮,水害の自然災害についてソフト対策を軸に研究を進めています.特に企業, 自治体,学校,医療機関,福祉施設など各種事業所の事業継続計画(BCP)の普及に力を注いでいます.その中で,日本に適した新たな危機管理手法はどうあ るべきかについて検討を行っています.BCPに関しては平成19年以降,原則として月に1度BCP研究部会を開催しています.毎月,約50名(30事業所 程度)のBCP担当者が集まり,BCPの策定方法などについて学んでいます.参加事業所や業種は年々拡大しており,県外から参加する企業も増えています. また,東日本大震災を受けて徳島大学でもBCP策定を進めることになり,このために設置された東南海・南海地震対策委員会の中核メンバーとして粕淵助教と ともに大学のBCP策定にあたる予定です.一方,「防災の常識人」の育成も大切にしている取組みで全学共通教育の中に開設した「徳島大学防災リーダー養成 講座」の運営を担当しています.この講座では「災害を知る」と「災害に備える」の2科目(各2単位)を修得した学生を徳島大学防災リーダーとして認定する ものですが,これと同時にNPO 法人日本防災士機構の防災士試験の受験資格が付与されます.この講座は徳島大学の学生だけでなく,社会人も無料で受講することができるため,社会人を含め て,毎年約100名の防災士が育っています.
学外での社会活動としては海岸4省庁による海岸における津波防災対策検討委員会,国土交通省国土技術政策総合研究所研究評価委員会,四国建設業BCP審査会,徳島県企業防災推進委員会など,国土交通省や徳島県などの委員を務めています.
蒋は地盤災害(主として斜面災害)および防災対策の研究を行っていますが,ドクターコースの学生と共に「地下鉄振動による地 盤応答および近接建物への環境インパクトの評価法」,「破砕帯地すべり調査,解析および対策工設計に関する総合的研究」,「逐次施工過程を考慮した盛土・ 切土斜面の進行性破壊解析に関する研究」,「岩盤斜面の不安定評価法に関する基礎的研究」などのテーマにも挑戦しています.
一方,学内で徳島大学大学院先端技術科学教育部国際連携教育開発センター部門員を務め,諸外国の連携大学と学術交流活動や共同研究を行っています.学外では国土交通省四国地方整備局道路防災有識者などの職務を遂行しています.
当研究室は減災の観点から積極的に災害現地調査を行っています.最近では「兵庫県佐用町豪雨災害調査」,「東京都北区堀船水害調査」,「霧島火 山・新燃岳の噴火に伴う降灰状況調査」,「中国の三峡ダム貯水池の堪水地すべり調査」,「東日本大震災現地調査」等を行っています.
宮古市宿漁港における津波高測量(2011/5/5撮影)