生態系管理工学研究室
生態系管理工学研究室
生態系管理工学研究室は,現在教員2名(鎌田教授,河口准教授),特別研究員2名(田代研究員,乾研究員),事務職員1名そして博士後期課程5 名,博士前期課程6名,学部生10名という体制です。生態系の保全・再生を合理的そして効果的に行っていくための手法や計画論に関する研究を,徳島そして 日本各地(沖縄,佐賀,広島,佐渡,知床等)で行っています。とくに今年からは,徳島県での「生物多様性地域戦略」の策定に向け,鎌田教授を中心に研究室 メンバーがサポートしています。市民団体や学識経験者,関係機関の有志が連携して生物多様性とくしま会議が発足,そして県内複数の場所でタウンミーティン グを行い,徳島の守りたい・利活用したい場所や生き物,伝統的な知恵や文化,保全と活用を妨げるものについて,意見や課題を抽出しています。このタウン ミーティングや生物多様性とくしま会議に,学生や院生が研究目的で参加しています。生態系を守り地域を元気にするための協働の“しくみ“と“しかけ“に関 する研究の一つです。また昨年から,私がはじめた「鮎と河川環境の関係に関する研究」では,ダムのある川,ない川から鮎を集め,食味試験による人の評価を 行い,同時に餌となる藻類や水をサンプリングして分析を行い,それらの関係性を解明する研究を行っています。鮎を食べ比べることで気づくこと,感じるこ と,そして科学的評価のすりあわせが,研究の切り口です。
昨年度は,鎌田教授が事務局長を務めた国際会議「都市における生物多様性とデザイン(URBIO(Urban Biodiversity & Design)2010,5月18-22日,名古屋市)」に,研究室メンバーも運営や準備,そして発表を通して関わりました。初めての国際学会,そして発 表ということで,英語でのポスター作成から発表練習まで準備は大変でしたが,参加した大学院生5名は無事発表を終えました。発表における質疑だけでなく, 国際会議運営の手伝いを通して,他大学の学生や,国内外の研究者と交流をもてたことは,参加した大学院生にとって貴重な経験になったと思われ,実りある国 際会議への参加となりました。
今年度は,5月に千葉で開かれた景観生態学会に,研究室から8名が参加しました。4名の大学院生がポスター発表に参加し,そのうち博士前期課程1 年の大橋君が“見事”ポスター賞を受賞しました(写真)。大橋君の研究は,“空間的階層概念に基づく湿性RDB植物の分布決定要因の抽出”で,水辺に生息 する希少な湿地性植物を対象に,日本レベル,地域レベル,マイクロハビタットレベルと空間スケールを変えて,湿地性植物の分布に影響する環境要因を抽出し たものです。田代研究員は,特別セッション:「東日本大震災復興支援」のあり方-新しい国土の計画と管理に向けて-で,“日本全国凹地マップと津波浸水被 害”についてポスター発表を行い,GISで抽出される窪地と津波浸水被害が重なることを発表し,注目を集めました。
9月には金沢で応用生態工学会が開催され,研究室から6名が参加しました。乾研究員と大学院生の1名がポスター発表,田代研究員は自由集会 で,D2の竹村君は国際セッションで口頭発表しました。そのうち乾研究員が,“見事”ポスター賞を受賞しました。乾さんの研究は,“九州における汽水性希 少ハゼ類の分布パターンと流域特性”で,膨大な野外調査の結果を基にGISを駆使して空間解析を行い,希少ハゼ類の分布パターンについて環境要因との関係 性を明らかにしています。また,竹村君は国際セッションで英語による発表でしたが,質疑応答もしっかりでき,今後の国際学会での活躍に期待がもてました。
また昨年の夏には,当研究室で氾濫原研究会 in徳島を企画しました。四国三郎(吉野川)に,徳島県内外(北は北海道,南は九州まで)から,氾濫原を対象とした研究に関わる35名の研究者が集まりま した。氾濫原研究会の特徴として,1日は室内で研究発表会,1日は現地でエクスカーションとなっており,現地を歩きながら異なる専門分野(河川工学,地形 学,植物学,生態学等)の知見を,特に若い人達が交流しながら学ぶことを目的としています。今回は,鳴門市段関のハス田における農業と環境再生の両立を目 指す田代研究員の研究紹介にはじまり,第十堰視察,鎌田教授による吉野川河川敷における外来植物の繁茂とその管理について説明があり,暑さにも負けず活発 な議論が行われました。参加した学生・大学院生は,あまりに元気な研究者(おじさん達)に圧倒されながらも,その幅広い議論を楽しんでいたようです。
当研究室では,上述したような国際学会から国内における学会・研究会そしてワークショップに,学生が参加・発表・体験する機会を数多く設けていま す。また,最近の研究室行事を振り返ると,4月に城山でお花見,5月はいちご狩りと上勝の棚田で田植え,8月には棚田の草刈り,10月に棚田の稲刈りと地 引き網などがあり,学生達は楽しみながら自然を体験しています。
研究室メンバーは日本各地の自然を訪れ,そこに住む人の生活を知り,自然の恵みを感じ,そして生態系サービスを最大限活用するための技術をみがいています。