工学部9 (昭和36年卒)

藤 田 昭 治

(株) かんこう 顧問

 はじめに

 平成23年3月11日(金)14:46三陸沖を震源とするマグネチュード8.8(後日修正9.0)の巨大地震が発生し た。インターネットで検索すると津波予報で高さ10㍍(大阪と徳島は3㍍) と表記されていた。その後次々と被害状況のニュースが流れ、阪神・淡路大震災を思い出しながら、これは大震災になると直感した。理由は偶然にも、私が21 世紀研究機構の阪神・淡路大震災記念[人と未来防災センター]で、東南海や南海地震による大津波によって多くの都市が水没するというシミュレーションを見 た直後に発生したためであった。                      

1 巨大津波の尊い教訓

 大災害が発生する度に、過去に学習したはずの災害防止の教えが、なぜ守られないのかと自問する。今も思うことは今回学習したことをどのような形で次世代に引き継ぐかということ。

 東日本巨大地震の大きさよりも、津波の大きさと、危機管理不足に驚いた。想定外だとか、過小評価だと云われているが、津波は河港の地形や大きさによって予報より高くなり、高地高台まで進む巨大津波になる等大きなリスクがあることは先刻承知のはず。

 

 テレビ放映 1・ 堤防越しになだれ込んだ巨大津波の脅威

 そのため津波対策は、可能な限り高く遠くへ迅速に避難することである。明治三陸大津波等過去の大津波で被害を受けた先 人の教えを守り、津波到達点の石碑より下には家を建てなかった地区は今回の災禍を免れた。これは天災に対する自己責任を果たし、リスク対策ができていたと いうこと。

  

    テレビ放映 2・ 街を飲み込んだ巨大津波

 リスク対策としては①リスク保有、②リスク削減、③リスク回避、そして保険等による④リスク移転の4つのリスク対策が考えられている。

 漁業の場合、自然に対しては利益と損失負担を受容するために、リスクを保有しながらもリスク削減とリスク移転をせざるを得ない一面もある。

 即ち、沿岸の水産事業をサポートしていくためにはリスクが伴うということ。万全を期し、コストを無視して「リスクを回避」することは実際的には無理である。「リスクを保有」しながら地域毎のリスク対策を講じざるを得ない。  

 また、被災地の復旧復興のまちづくりは、リスク対策とコストを踏まえて、国や自治体と企業いわゆる官民一体で支援する こと。公共が高地高台の住いと漁業等沿岸施設の間に、便利で安全に配慮したアクセスや高層の緊急避難施設等の防災環境を整備すること。具体的には、6月に 発表された「復興構想会議からの提言」を受け、地域毎に住民が何を求めているかをさらに協議し、優先施策から早急に実施すること。防災環境が整備されれば 住民も「命てんでんこ」の自己責任力を発揮して、先人の教えを守り、自らのリスク削除ができるはず。

2 福島原発事故は人災

 原子炉圧力容器とタービンの耐震設計は当然として、特に重要なことは各建屋を繋ぐ配管の耐震性である。即ち発電所全体 の耐震対策とともに万一に備えて、住民の被曝防止対策を講ずること。また地震大国としてのリスク管理と危機管理について徹底的に議論して対処すること。            

 福島原発はそれが何処までできていたのか、被曝その他の被害拡大の原因がそこにあったと思う。地震と津波によって原子 炉とタービン建屋が破壊し、放射性物質が漏れた。非常電源や各配管等の耐震性確保も含めて総合的な技術監理としてのリスクマネジメントが不足していたとい うこと。

 福島原発の水素爆発、放射性物質の漏洩、原発冷却と汚染水除去の難航、事故評価尺度が最悪のレベル7になる等、刻々と 発表される被害状況からみて、もはや日本だけでなく世界的な大災害となった。調査ロボット等で改めて現場を調査した結果は当初の発表と尽く異なっており、 東電と政府は全く信用を失った。7月現在もまだトラブル続きで、原発安定化作業は進展しない。

 また発電コストについても問題視されていることが5, 7月にテレビで放映された。電源三法交付金開発費等加算すると 原発が最も高い。リスクもコストも最も高い。さらに人体被曝安全基準値も変わってきた。国民はいったい何を信じたらいいのか。国民が自ら問題意識を持って 勉強するしかない。

3 脱原発か原発継続か

当初の危機管理不足と発生直後の初期活動の遅れから今も放射線や汚染水が漏れている。わが国のこの様な現況を見聞するにつけ、地震対策と原子力発電の技術を世界に発信してきた日本だけに誠に残念である。

 チェルノブイリとスリーマイルに続く福島の事故で実証された原発事故の脅威。放射線という極めて高いリスクを持つ原発建設は設備投資や多重チェック体制の確立及び教育訓練等によって完全にリスクを削除することは不可能であることが実証された。

 今後技術革新により放射線のリスクが完全に無くなるまでは、次世代の人命を守ることを最優先として、リスクを保有しな いで、リスクを 回避し、適切なリソース(人的資源と情報)配分を行って、太陽光、風力その他のエネルギーを求めるか。はたまたこれまでの利益優先で投資に未練を持ち、人 命を危険に曝すリスクの高い今の原発を再開するのか。この度東電の総会で、多くの個人株主が脱原発を提案しながら、金融関係等の大株主の反対で否決され た。次世代の環境と人命を犠牲にしてでも、産業経済が停滞することを避けるためという方便で原発を続けるのか。次世代の環境保全よりも、リスクの高い原発 頼みの経済進展を選ぶという。

 欧州ではスイス、ドイツ、イタリア等は福島の事故で脱原発に舵を切った。

 4月のテレビ・ニュースによると、アメリカNRG エナジーは「株主の理解が得られない」として、建設予定の原発を中止したと発表した。

 わが国も、人の暮しライフスタイル、価値観を見直すか否かまさに国民の自己責任力に懸かっている。

おわりに    

 過去の大震災以上の震災が発生すると、その都度震災対策が見直され実施されてきた。しかし、こと原発となると高濃度の 放射線漏れという極めて高いリスクが伴う。一旦事故が発生すると取り返しがつかない。正直なところ私も福島原発事故のお陰で原発が如何なるものか、改めて 勉強した。この原発事故を教訓として将来の自然エネルギーについて研究開発を推進すること。そして福島原発事故が最大のレベル7となったことは、この重大 な人災についての反省を促したもの。当原発を安全無害化し、その影響地域の全産業や居住環境を地震に強い町に復興することは当然として、この機会に過度の 電力依存ライフスタイルを改めること。スイス等欧州の様に原発そのものを見直すと同時に、原発に替わる環境にやさしく新しいエネルギーを研究開発するこ と。それで新しい雇用を創出することが重要である。国はそのための予算をさらに効率的に集中投資する等の早急な開発促進を図る必要がある。

 振り返れば広島・長崎の被爆、この度は福島の被曝も経験した日本であるからこそ覚悟を決めて、既得権益等これまでの発 想を改め、世界中の子供達にとって住みよい地球環境を引き継ぐよう最大限の努力をする。それを世界に発信し続けること。国民一人ひとり、私達が学ぶべきこ とは「世界が、国が、社会が或いは企業が」と逃げないで、次世代に対して持つべき自己責任力を養わなければならないということである。